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輝く女性ランナーVOL.10 湯川千穂 ⑦

<第7話> 湯川"らしさ"の価値


五感を使って走ることを知った湯川は、その後も、ランニング仲間と共に、走ることによってもたらされる「心とカラダの充実感・幸福感」をただただ求めた。楽しく充実した日々が過ぎていく。ただ、湯川が、このままここで留まるとは思えない。いろんな葛藤を経て、彼女はグレードアップしていくのである。

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走るのはハーフマラソンばかり

ラン友との交流が多くなると、湯川は「トレーニング方法」などを教えてもらう機会が増えてきた。友だちの勧めで、スピード練習も取り入れるようにしてみたが、思うように走れないことが多い。実を言うと、湯川は、スピード練習に不慣れなこともあるが、苦手意識が強い。

ランナーの多くが「スピード練習は嫌い」と言う。ランニングは、基本的に"楽しむもの"というスタンスが一般的と言えば、一般的である。競技者でもないのだから、好きなように走ればいいこと。仕事で疲れたカラダに鞭を打つようなトレーニングは、相応しくないような気はする。「"記録を出すための練習"と湯川自身が好む"五感を使って走る"こととは、相反する」ことだと感じていた。

そんな気持ちの表れが、湯川が(この時までに)出場してきた大会の"距離"に示されている。それまで出場した14回のレースのうち、なんと!ハーフマラソンが12回で、あとは、初レースの時のフルマラソンと10kmが1回ずつ。そのほとんどがハーフマラソンだったというのは、きっと偶然ではないだろう。見事なまでに、ハーフマラソン一徹である。

「10kmはスピードが速く呼吸がゼーゼーして苦しいし、フルマラソンは後半に必ず起こる脚の痙攣が嫌だった」と。苦しさから逃げているわけではないが、「気持ち良く走れる"ちょうど良い距離"が、ハーフマラソンだった」というだけのこと。湯川がランニングに求めるものは「研ぎ澄まされる感覚を養うこと」。これは、ずっと変わらない彼女のランニングのスタイルなのである。

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再びフルマラソンへ

「湯川がハーフマラソンにしか出ていなかった」ことを聞くと、ラン友たちは、一様に「もっと短い距離のレース(10km)に出たほうがいい」「スピードをつけるとハーフマラソンの記録も伸びるし」と口を揃えて進言してくる。

何度も誘われるので、10kmのレースも何度か申し込んで、一緒に走ったりした。そんな感じでありながら、駒沢ランニングフェスタでは、あっさりと37分42秒を記録している。湯川のスピード能力もかなりのものと推測できる。(しかし、やはり、気持ち良さはあまり感じることはできなかったようだ)

そんな湯川を周りの友達は、益々はやし立てる。「そんなにスピードがあるのだから、ちゃんと練習すれば、フルマラソンは相当いけるよ!」と何度も言われてしまう。さらには「一緒にマラソンに出ようよ」と何人にも誘われるので、「抽選に落ちてもいい」という気持ちで「倍率の高い」横浜マラソンにエントリーしておいた。

そんな感じ(経緯)なので、「モチベーションは上がらない」まま、抽選日さえも忘れていた。そこへ抽選結果が送られてきた。こういう人に限って、抽選に通ってしまうのはよくありがちな話だが、湯川もそんなジンクスに従うように、"期待外れの抽選突破"となるのだった。(似たような話、前にもあったなぁ=
市民アスリート紹介・佐熊さん

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手が伸びたノウハウ本

湯川は、フルマラソンには、乗り気じゃなかったが、抽選に通ればフルマラソンに対して前向きな気持ちが芽生えてくるのか!?と思いきや、大会が近づくにつれ生じるのは"焦り"だった(初レースのフルマラソン以来だから?)。

そんな時に、偶然、有名市民ランナーの成功本を目にする。パラパラとページをめくってみると、中身が気になったので、興味本意で買ってみた。さらには、「せっかく買ったのだから」と、その通りに練習してみることにした。自分でも気づかないうちに、「見つける」「手に入れる」「やってみる」の"不安解消の三段階作戦"を自然と敢行してしまっていた。

だが、実際にやってみると、これが全くもってシックリこない。自然体が売りの湯川は「やることが予め決まっている」ことが嫌で、何より「やらされ感」が強くて抵抗があった。義務感ばかりの練習で、「本に書いてある通りにできないと罪悪感さえ生じてくる」始末。ストレスがどんどん溜まっていき、途中で「もう無理!」となってしまった。

聞くと、トレーニング内容だけではなくて、練習タイムまでも真似るべく走っていたという。その本は、簡単に言うと「サブスリーを達成するため」というような成功本だった。ランナーは、人それぞれで環境も境遇も体調も違う。誰かの成功が自分に全て当てはまるわけではない。臨機応変にアレンジしたり、調整が必要になってくる。

大きい"友の存在"

そんなことに「湯川自身が気付いたのか?」「誰かが教えてくれたのか?」はわからないが、ある日、このやり方に無理があると気がついた。途中から「ペースを落として、本の通りに練習をやりきる方針に変更しました」と(途中で投げ出さないところが湯川の強さなのだろう)。賢明な判断だったのだろう。その方向転換が功を奏し、湯川は、本に書いてある練習メニューを最後まで何とかやり通すことができたのだ。

横浜マラソンに向けて、練習をやり遂げられたのは、練習方法の方向転換だけではない。マラソンに向けて、大事なメニューになる30km走などの練習を一緒に走ってくれたラン友が数名いた。「友だちに一緒に走ってもらったことが大きい」と振り返る。湯川にとって、決められたペースで長い距離を走るのは、大の苦手だったからだ。「ラン友の存在をこれほど頼もしく、ありがたく感じたことはなかった」と感謝の言葉を口にする。

サブスリーまであと10秒

そして、迎えた横浜マラソン本番。結果は、3時間00分09秒(グロスタイム)。ネットタイムでは、サブスリーだったが、サブスリーを逃したことに対して、悔しさは全くなかった。「だって、サブスリー狙ってなかったのですから」と。そう、大会という目標に向かって頑張っていたのではなく、本の通りに練習することが目標になっていたのだ。「タイムを狙うために本を買ったのではないの?」と突っ込みたくなるが、こういうことは、意外と多くの人にありがちかな話かもしれない。


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「もう少しだったね。惜しかったね!」と友だちの何人もに言われる。ただ、ゴールして「達成感も満足感も中途半端な状態だった」のが正直な気持ち。「喜ぶべきか悔しがるべきか・・・。そもそも、私は何のために横浜を走ったのだろう」と考えながらボンヤリとしていると、レースの途中ずっと湯川を引っ張ってくれた女性と偶然一緒になった。

お礼を伝えると、その女性と会話が始まった。その話の中で、湯川に「"五感を使って走ること"が大切なんだよ」というようなことを言ってきた。ハッとさせられた。練習のノウハウ本(ツール)を意識するがあまり、「こんな大事なことを忘れていたなんて・・・」。

人が繋がる理由

その女性は、かつて2時間40分台の記録を持つ経験豊富な実力派ランナーだと知らされた。「だから、大きなオーラがあったのか」と納得する。さらに「これが日本でのラストラン」だと聞かされた。日本で走る最後の機会に、こんな人と会話ができるなんて、「この巡り合わせは何なのだろう?」と不思議に思った。「そうか!」頭に電気が走った。

「全てが繋がっている」と感じた。

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「自分という"自分だけの姿(オーラ)"があるからこそ、人は繋がるのだろう」と気づかされた。「コピー人間じゃ駄目なんだ」とも。「コピーの繋がりなんて、つまらないじゃない!」と思った。

だから、"私らしく生きよう"と思った。「本の通りに走る」なんていう無機質な生き方ではなく、「人の温かみが感じられるランニングライフをしたい」と強く思った。できることならば、「私独特のオーラを発し、周りの人と繋がっていたい」と。

「人としてランナーとして、もっともっと成長したい」と強い意思が芽生えていく湯川であった。


-続く-

<第8話> 人の和の中で

<第1話> 「無」になれるランニングとの出会い

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