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輝く女性ランナーVOL.10 湯川千穂 ③

<第3話> フルマラソン完走大作戦


湯川は、父親に誘われて、初めてのロードレース「若潮マラソン」に参加する。その当月に、やっと10kmをジョギングできるようになった程度でのフルマラソン挑戦だが、まさか!の4位に入賞してしまうのだ。明らかに準備不足の湯川が、どんな方法で苦しいフルマラソンを乗り越えたのだろうか? 湯川らしい「自然と採られた作戦」が奏功するのである。

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作戦① 景色を楽しむ

さすがの湯川も、スタート前は「マラソン大会は、脇腹が痛くなる苦しみを味わった小中学校時代のイメージが強過ぎて、修行に出るような気持ち」で心は満たされていた。しかも、練習の4倍以上も走る未知の距離。恐怖感さえ覚える。この程度のモチベーションで、フルマラソンに臨むと普通は完走できない。恐怖感があり慎重になっただけに、オーバーペースは避けられたのかもしれないが。(結果が出ているので言うが、よくぞ完走できたというものだ)

スタートしてしばらくすると、湯川の心に浮かんだのは、「先が長いので、走りに集中して淡々と走ったのでは気持ちも身体も持たない」という不安。何となく採った最初の作戦は「景色を楽しむ」こと。地元のレースだったので、綺麗な海や山を感じながら走ってみる。(これまでは田舎育ちで都会への憧れが強く)自然の素晴らしさを感じるようなタイプではなかった湯川だが、「レース中の苦しい辛い場面で、気を紛らわそうと景色を見て、自然の素晴らしさを感じながら走ってみました」多くの人が採る方法で、何とも微笑ましい。

作戦② 知り合いを探す

そんな余裕もレースが進んだ後半には、ほどなく失われていく。苦しみがどんどん押し寄せてくる。辛いだけの時間に突入しかけた頃、湯川を応援する声が耳に届いてきた。良く見ると、学校の先生やテニス関係者がコース上で役員として立っていたり、地元の友人が応援してくれたり、親戚の方が励ましてくれていたのだ。地元の方々の声援を受けた湯川は、苦しさが吹き飛ぶ感覚に襲われる。初めての感覚に驚きながら、「人の声がこんなにも力になるなんて!」思わず涙が出てきた(孤独なマラソンは人を感傷的にさせる場合が多い)。

「どうして今まで気付かなかったのだろう」その前に声援を送ってくれた人がいたとしたら申し訳ないと思うと同時に損をした気分にもなった。今度は、景色を観るのではなく、沿道の人を見ながら走った。絶対に見逃さないように!と、左右をきょろきょろ。苦しさは完全に忘れている。「人探しで苦しさを紛らわす」ことを自然と実行していた。(天性の資質か!?)

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作戦③ 叫ぶ

中学校や高校の先生を見つけると、「〇〇先生!私です!湯川です!」と叫び、テニス関係者、友達を見つけては「〇〇さん!私、湯川です!!」と相手が気付くまで叫ぶ。「叫んで自己紹介しながら走る」という驚きの行為に出た(こんなランナーいるかよ!?そのシーンを想像すると思わず笑ってしまう)。

湯川が走っているなんて思いもしない沿道に立っている知り合いは、叫びながら走る湯川を発見すると、「えー!湯川か!?」と一様に驚き、「がんばれー!」と励ましてくれるのだった。その声援に、湯川は「がんばってまーす!でも、きついよー!」って答えながら走ったというから、何とも愉快だ。

こんなやり取りが成立するのは、湯川が「地元ではテニスで有名」だからか、それとも、「こんな性格」だからか!?ノーコメントとしておくが、「本当に失恋で落ち込んでいたの?」という疑問が湧いてくるのは、きっと私だけではないだろう(笑)。

しかし、そんな「苦しさからの逃避作戦」もいよいよ限界を迎える。

作戦がない時間 過去を反省する

レース終盤(30km過ぎ)で、これまでに経験したことのないほどの疲労感に襲われる。脚 がパンパンになり、膨らんで破裂してしまうような感覚。「『脚が棒』ってこういうことを言うんだなー」「脚が重くて、一歩を前に進ませるだけでも、本当に大変でした」と。(そりゃそうでしょ!直近に"やっと10km走れるようになった"だけなのだから)

走ると脚が攣りそうで、競歩みたいに「すり足」で走る。高校時代に何度も通った道なのに。ゴールまでのコースと距離感がはっきりわかるのが良いのか悪いのか・・・。近いようで遠いゴールが何とももどかしい。

部活動後の疲労困憊状態での帰路。当時は、辛いと思っていたが、その比ではない"鉛を身につけたような重い足取り"に、思わず「高校時代のテニス、もっと頑張れたんじゃないのか!」と反省の念まで浮かんできた。人は、辛い経験をすると、過去の自分の甘さに気付くというが・・・(この場面で思うかなあ!?)。

作戦④ 最後は、父への想い

「ずっと待ってるから、ゆっくり楽しんでゴールまで帰ってこいよ」という父の元へ少しでも早くゴールしたい!という気持ちが、重い脚を少しは軽くする。小さい頃は「お父さんの金魚の糞」と近所の人に言われるほどのお父さん子だったらしいが、思春期から少し距離を置いてきた湯川。「ゴール後にハイタッチをするんだ!」という強い思いが、湯川を奮い立たせたのだった。

「私の最後の頑張る力は、父への想いでした」と語る湯川の目には光るものがうっすらと浮かんでいる(いやいや「さっきまで、あなた、叫んでたじゃないの!?」という突っ込みは、時間軸が違うので正しくはないが、思わず突っ込みたくなってしまう)

ゴール手前で父の姿を発見し「お父さーん!!」と叫ぶ娘。焦った様子で鞄をごそごそする父親(えっえ~?と目を疑ったに違いない)。「こんなに早く帰って来ると思っていなかったらしく、必死にカメラを探したようですが、シャッターチャンスには間に合いませんでしたね(笑)」(そりゃそうでしょ!3時間半そこそこでゴールするなんて予想できるわけがない)

「景観を楽しむことで気を紛らわし、知り合いを探しながら走り、その知り合いと叫んで会話することで苦しさを紛らわす。そして、最後は大事な人への想いで力を振り絞る」という湯川の見事な作戦に『あっぱれ!』と(張本さんが言ってくれるかは、わからないが)多くの人は言ってくれるのではないだろうか(笑)。

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初マラソンを走り終えて

ゴール後、思わず近くにあったパイプ椅子に座る。しばらくの間、立つことさえできない。歩くこともままならず、膝も曲がらず・・・。父親に送った「渾身の走り」。喜びや感動の余韻に浸る余裕もない。ただただ、疲労感と充実感で満たされている状態だった。「翌日の仕事は予め有休をとっておいてよかったと思いました」と当時を思い出しながら語る湯川に質問したくなった。

それほどの力走の末、自分の限界を超えた先に見えたものは何なのだろうか?

湯川は少し考える。興味津々に答えを待っていると、湯川が口を開いた。

「私、やればできるのかも」

あれれれ・・・拍子抜けするほど単純な答え。だが、この初マラソンのゴールこそが、湯川の心に火が点った瞬間だったのだ。

-続く-
 
<第2話> フルマラソン挑戦の裏側
<第4話> ビギナーズラックのその後
 
<※ご参考>
マラソンの翌日 元気に出社するために ~その1

マラソンの翌日 元気に出社するために ~その2


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