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弛むことなき旅路の果て 吉田香織に送るレクイエム⑬

yoshiada_title_1.jpgのサムネイル画像<第11話 ①> 心の木霊(こだま)


覚醒を呼ぶ声援

サバイバルレースとなった「さいたま国際マラソン」が、いよいよレースの終盤に差し掛かる。

25キロ過ぎの折り返し後、反対車線を走る後続のランナーとすれ違う。中央分離帯越しに、吉田に声援を送る多くのランナーがいる。「吉田、頑張れ!」「かおりちゃんファイト!」その声の先には、見知った顔もある。

yoshida63.jpg耳に届く大きな声援。頭の中で木霊(こだま)のごとく反響し、心を刺激してくる。すると、カラダに電気が走り、その度にカラダが新鮮さを取り戻すような感がある。苦しさが消える。「この痺れるような不思議な感覚は何?」。(このメカニズムは、ホルモン分泌の影響(効果)なのだろう。きっとβエンドルフィンが出ているに違いない)

声援が心で木霊する

吉田はふと思う「これに似た感覚があったなあ」。さいたま国際マラソンに向けて、ずっと継続してきた山のトレーニング。走って登りつめた山の頂きで、仲間とともに叫んだ時のシーンが蘇る。吉田が発する声が澄んだ空気を伝わり、静かな山々に散りばめられていくかのように、反響を重ね広がっていく。山登りで苦しさが頂点に達していたはずなのに、一瞬にして消え去るこの瞬間が、吉田はたまらなく好きだった。

yoshida62.jpg「こだま」を「木霊」と書くと習ったのは、いつの頃だったか?「木に宿る精のいたずら」だと教えられたことを思い出す。「精の仕業かあ」「じゃあ、この声援の反響は、皆の精が私に届けられていることなのかもしれないな」と元気を与えられている気がした。

このレースに臨むにあたって、たくさんの応援メッセージをもらった。その内容は「オリンピック目指して!」から「笑顔でゴールしてね!」まで様々。1年という短い時間の中で知り合った人は一体何人になるのだろう。紆余曲折の人生を歩んだからこその出会い。過去の自分には考えられない多くの繋がりが生まれ、そして、励まされていることを実感する日々を過ごしてきた。

yoshida66.jpgそれぞれの人が、苦労や苦悩と共に生きながら、ランニングを楽しんでいる(勤しんでいる)。エリートだから、特別ではないことを知った。エリートは、ただ単に記録が速いだけなのかもしれない。仕事をしながら趣味で走り、さらには、記録を狙っているランナーも数多い。そこにある努力を見てきた。たくさんの勇気をもらった。自分自身が小さいことを思い知らされた。

そんな皆の代表として走りたかった。皆の想いを乗せて、皆への感謝の想いを込めて!

動くレース 動かなくなるカラダ

32キロ過ぎ、優勝者 BAYSA Astede がギアチェンジして急激なペースアップを始めた。それに付くことができたのは、マラソン7戦4勝の CHESIR Rebecca Kangogo だけだった。気持ちでは追っているが、あまりにもペースが速く、対応できるレベルではなかった。吉田は、徐々に引き離されていった。苦しさよりも悔しさで心が覆われる。

35kmが過ぎた。「冷えるカラダ」「動かなくなる筋肉」「消失するエネルギー」三重苦が吉田を襲う。進むほどに「遠ざかる先頭ランナー」「重くなる脚」に気力が萎えそうになる。
勝利が遠ざかっていく。

yoshida65.jpgそれを阻止すべく、沿道の人々やテレビ・ラジオの観戦者の声援は強さを増す。
そんな声が心に響く。そのエネルギーを受けているかのように、「今の私は昔とは違う」とばかりに、ダイナミックな動きに衰えはやってこない。ストライドが狭まった分だけペースは落ちただけだ。

少ない練習量で臨んだレース、肉体はとうに限界を迎えていたはずだ。その限界値を引き上げているのは心でしかなかった。"競技レベルを超えて分かつ世界"に足を踏み入れ始めた吉田は、「皆の想いと自分の想いを胸に精一杯走ったら、"かけがえのないもの"を手に入れられる」ような気がしていた。

「ここで諦めるわけにはいかない」 吉田は、最後の力を振り絞る。

-続く-

<第11話>① 心の木霊② 分かち合う世界


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