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弛むことなき旅路の果て 吉田香織に送るレクイエム⑧

yoshiada_title_2.jpgのサムネイル画像<第6話> ② 暗雲が晴れるとき


ソウル入りと恐怖心

ソウル国際マラソンの御一行は、何日か前にソウル入り。それもツアーでゾロゾロと。吉田が国際マラソンのエリートの部に挑戦しようとしていることを考えると、何とも滑稽である。だが、それが幸いする。(吉木の作戦は、順調に遂行されていく)


yoshida_soul_1.jpg吉田が、過去の忌まわしい出来事を思い出さないわけがない。「アスリートとして、二度とフルマラソンを走ることはない」と思っていたし、「私が再びエリートランナーとしてフルマラソンに挑戦すると知ったら、過去を知る人たちはどう思うのだろう?」 恐怖感さえ覚える。これらの感情は、人として普通であろう。

ソウル入りしてから、練習以外は、ツアーの皆と一緒。これが吉田には、ほんとうに有難かった。一人になる時間が少ないので、気が紛れる。結果的に、"不安"や"恐怖"から逃避できたことになったのだ。


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吉木歌劇団の助演と主役(吉田)

そんなことは「百も承知」とばかりに、ツアーの一行は、吉田をエリートランナー扱いしない。昼間は、観光やショッピングに誘い、夜は、お酒を勧めた。みんな知っていたのだ、吉田の"気持ち"を。

もはや、単なるソウルツアーではない。"チーム吉田"が結成され、そのメンバー全員が役を演じていたことになる。吉田香織を"主役として表舞台のステージに立たせるため"に、精一杯の助演の演技をしていたわけである。

そして迎えたソウル国際マラソン当日。吉木歌劇団に属する俳優の助演が効き、吉田は、本来の自分を取り戻しながら、スタートラインに立った。走り出すと、勝ち気な吉田は、練習不足などお構いなしにハイペースで飛ばす。自分の気持ちを抑えることなどできるわけがない。久しぶりのレースに気持ちが高揚していたこともあるが、やっぱり、それが吉田香織なのだ。


ソウル12.jpgそんなペースで走るのは、どう考えても無謀だし、そんなことしたらどうなるかの結果も見えているはずなのに、「徒然なる」選択を彼女はしない。

最後は歩くようにゴールし、2時間37分37秒 11位という結果に終わった。

ゴール後しばらくの間、吉田は、歩くどころか動くことすらできない。それを見た吉木の目には涙が溢れる。「一生懸命に走れる吉田が帰ってきた」ことが、吉木は何よりも嬉しかったのだ。肩の荷が下りるような・・そんな感覚があった。(しかし、この場面では吉木の感情なんて、どうでもいい) 肝心なのは吉田自身の反応の行方である。


ソウル7.jpg

暗雲が晴れるとき

それなりに練習はしたが、コーチ不在の渡り鳥トレーニングに限界があるのは当たり前だ。しかし、彼女にとっては屈辱のタイムだったはずだ。「この結果をどう受け止めるのだろうか」吉木は、恐る恐るを様子を伺う。当然、吉田はショックを受けているかなと思ったからだ。しかし、吉田の内面で起こった心の変動は、ネガティヴではなかった。

2年以上ぶりのマラソン(レース)を走り終えると、 吉田は、清々しい気分で全身が覆われ、そして、充実感で心が満たされていた。モヤモヤと自分を包み込んで離れなかった"暗雲"に切れ間が現れ出した。視界が開け、青空が現れ、光が差し込むような感覚があった。「これで進める!」吉田は、そう感じた。


yoshida47.jpgソウル国際マラソンのゴールが、傷付いた羽を癒した瞬間だった。飛ぶことを忘れた渡り鳥が、自分らしく生きるために、再び羽ばたき始める。


吉木の作戦は、見事に成功したのだった。


-続く-

<第6話> ① 吉木の作戦② 暗雲が晴れるとき



<第7話>命運を分ける針の傾き 

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