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シューズ職人「三村仁司」を紐解く➍

 <最終話> 涙の数の想い                           <第三話>シューズは芸術作品


 三村が、ここまでシューズ作りにこだわるのには、もっと深い訳がある。
 三村自身の経験によるところは、第二話で書いたが、それだけではない。

 それは、三村がシューズ作りを通して見てきた「選手の涙の数」であり、選手と共に戦って経験した
 「悔しさの数」だ。選手が世界に挑むために、三村は、全てをかけてシューズを作り、全力で
 アドバイスしてきた。勝っても負けても、感じる思いは選手のそれと同じだと言えるかもしれない。
 (自分の感情を選手に見せたりしないだろうが)

 アテネオリンピックで野口みずきが金メダルを獲得したとき、野口は、シューズを野口選手パネル.jpg
 脱いで手に持ち、キスをしている。共に戦ったという野口の気持ちの表れであり、
 その証だろう。マスコミ向けに演出したわけではあるまい。

 野口は、「過酷なレースを一緒に戦ってくれたシューズに感謝したかっただけ」と
 語っているが、それは、レースだけを指していない。何ヶ月、いや、何年間にも
 渡って身につけてきたシューズへの感謝だ。
 レースだけ頑張って金メダルを取ったわけではないのだから。

 この話をすると、三村は、今でもグッと胸にくるという。「選手はいつも必死に
 闘っている。足が痛くなれば、泣きながら毎日を過ごすはず。だから、シューズ
 作りも、絶対に手を抜かない。選手と同じ姿勢を持たんといかんのです」と。

 実際に脚と足を見て、データを細かくチェックし、選手と対話し、動きもできるだけ
 大会で確認する。いくつもあるシューズの『要素』を組み合わせると、何百通りにも及ぶだろうが、
 もちろん、計算式があるわけではない。

 選手の脚(足)を測定し、選手の走りを見て、選手との交わす何気ない会話から、言葉では表せない
 『何か』が浮かんでくる。それをシューズ作りに反映させるのだ。「自分が持っている感性と技術、
 そして、心をシューズに注ぎ込み、最高のものを作るという気持ちで取り組んでいる」と話す。

三村仁司③.jpg選手も自身の経験や感性から、三村にも要望を出してくる。
否定はしないが、受け入れては走れない場合が多い。だから、
重きを置くのは、選手との対話。言葉も選ぶ必要があり、
真剣勝負となる。選手の要望を一方的に聞くことはしない。

「要望に対して、違うものは違うと言える人間関係作りから始まる」
と少し強い口調で三村は話す。本音でディスカッションできるようになると、
選手の感覚と三村の感性のギャップが縮まってくるというわけだ。
 選手は走りの中で、シューズの機能を感じ、それを伝えてくれればいい。どこに違和感があり、どこの筋肉が
 張りやすいのか。その情報を得られれば、手で触ればシューズの硬度がわかる三村の経験と感性が生かせるのだ。

 共に戦うとは、こういう作業を言うのであろう。

 最後に、「強くなる選手は、どんなタイプか」を問いてみた。
 こちらとしては、脚(足)に関することを訊いたつもりだったが、予想外の答えが返ってきた。

 「強くなる選手は、素直で感謝を忘れない人間」「周りの人(監督やスタッフ)が選手の欠点や改善点を遠慮なく
 言える人間関係を築くこと。つまり、選手には、それを受け入れる器があることが重要だ」と三村は話す。
 古臭い表現だが・・・と前置きし、「お互いを信頼し合う師弟関係。それがポイントではないか」と付け加えた。

 純粋な心と周りのアドバイスを聞き入れて、それを信じて実践する力が必要というわけだ。
 「こういうものの全てを備えていないとマラソンで勝つのは難しいよ」と話す三村の顔は、
 多くの若者を見てきた『威厳を備えた父親』に見えた。

 「まだまだ引退なんて考えていない」と三村は遠くに視線を移動させて話す。
 三村のシューズを履いて、選手がどんな活躍を見せるか今後も注目していきたいと思う。
 その視線が見据えているであろう『東京オリンピック』という舞台で。
                                                (敬称略)

                         <おわり>

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