<マラソンランナー赤羽有紀子のその後(上)>
『 元五輪選手の母親の顔 』
2014年1月26日の大阪国際女子マラソン出場を最後に 現役を引退した 赤羽有紀子(現:ホクレン
スポーツアンバサダー)が、マラソン大会のゲストランナーとして、故郷である栃木県のレースに出場した。
出場した大会は、栃木県真岡市で行われた「真岡井頭マラソン」。
彼女が高校時代を過ごした思い出深い場所だ。
ただ、今回は、ねんりんピックを兼ねた大会となっており、
正しくは、「ねんりんピック栃木2014」のゲストランナーと聞かされた。
現役時代と変わらぬ細っそりとした体型で、彼女は大会会場に現れた。
「選手に戻りました!」と言われたら、誰でも信じそうなくらいだ。けっこう
走っているのだろうなと思って、「今でも走っているのですか?」と訊くと、
「ほとんど走っていませんよ。今日も10キロ完走できるかな・・・。
45分では走りたいと思っているんですけど・・」
なんて不安を笑顔で口にする彼女。
現役時代に見せていた「自信に満ちた頼もしい姿」とのギャップには、
こちらが戸惑うくらいに控えめだ。
メイン種目の10キロの前に、親子の部2キロに出場するという彼女は、
娘さんを連れてきていた。「親に似たのか、負けず嫌いなんです(笑)。
今日も張り切ってるんですよ。しっかりサポートしてあげないと」と。
現役時代は、競技中心の生活が強いられ、長期の遠征も多く、家にいないことのほうが多かった。
「今は、子供と触れ合う時間ができたのが嬉しくて」と話す顔は、お母さんのそれだ。
夫の周平さんは、4月から豊田自動織機・女子陸上競技部のヘッドコーチに就任し、
単身赴任で愛知県に出向いている。ほとんど会っていないという。子育てを一手に
担うことになったが、まったく意に介していない様子で、「子供と一緒にいられな
かった『かけがえのない時間』という負債を、今は少しでも返したいんです」
と言い残し、嬉しそうに親子の部のスタートに向かった。
しっかりと手を握りながらスタートを待ち、手を繋いでゴールする。
(親子の部は、二人が手をつないでゴールすることがルールである)
年齢も身長もかけ離れた親子が、呼吸を合わせて1秒でも早くゴールを
目指す姿(シーン)は、素晴らしい光景だ。
お母さん(赤羽)から伝えられるのは、母親の温もりだけではないだろう。
アスリートとしての『何か』を、手を介して伝えているように見えたのは、
私だけであろうか。